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東京高等裁判所 平成8年(く)41号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、請求人代理人ら連名作成名義の即時抗告申立書及び同補充書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、要するに、原決定は、請求人が一日あたりの補償金として金一万二五〇〇円の主張をしたのをしりぞけ、一日あたり金一万円の割合で、「請求人に対し金二一六一万円を交付する」としたが、これは不当であるから、原決定を取り消した上、請求人に対し、一日あたり金一万二五〇〇円の割合で、合計金二七〇一万二五〇〇円を交付するとの裁判を求めるというのである。

そこで、検討するに、本件記録によれば、原決定判示のとおり、請求人が未決の抑留拘禁を受けた日数は合計二一六一日であり、請求人に対し、右の期間について、刑事補償法による刑事補償をすべきものと認められる。

その補償額について、本件即時抗告申立の趣意にかんがみ検討するのに、本件記録によれば、原決定が、そこに掲げる諸事情を総合して、同法四条一項所定の金額の範囲内で、一日あたり金一万円の割合による合計金二一六一万円の補償金を交付するのが相当であるとした判断に不当な点があるとは認められない。

所論は、原決定が金額決定にあって考慮したとしている事情のうち、第一回公判後実質審理に入るまでに約六か月かかるなど審理が長期化した原因の一部は請求人の側にもあるとしている点に対して、審理長期化の責任は、すべて検察官にあるから、これを理由とするのは不当であるという。しかし、関係記録によって認められる本件審理の経過をつぶさに検討してみると、検察官の立証活動等に適切を欠く場面が全く見られないわけではないが、それよりは、はるかに請求人側の訴訟活動に適切さを欠く場面が多かったこと、なかでも裁判所の訴訟指揮あるいは法廷警察権行使に対して請求人側からされた数多くの異議その他の申立に対して、裁判所が一定の裁定をし、したがって訴訟手続上はこれに従うほかない状態になった後になってもなお容易にこれに従わず、延々と同様の発言を繰返す場面が多かったことが審理長期化の大きな原因になったことは到底否定できないところと判断される。原決定が、「審理が長期化した原因の一部は請求人の側にもある」として、このことを補償金を定める上で一つの事情として考慮したことになんら不当な点はないというべきである。

また、所論は、請求人は本件での身柄拘束によって、重大な財産的損害を被ったものであり、この点を補償額を定める際に斟酌すべきであるという。金額決定にあたっては、請求人の受けた財産的損害の程度等をも事情の一つとして考慮すべきは当然であるが、請求人が原決定後陳述書において明らかにしている経歴等を一つの事情として考慮に入れても、これによって直ちに原決定の前記判断が不当であるとか、その判断に変更を加えるべきであるとまでは考えられない。

論旨は理由がない。

よって、本件抗告は理由がないから、刑事訴訟法四二六条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 秋山規雄 裁判官 門野 博 裁判官 福崎伸一郎)

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